『世界には許されない嘘なんてほとんどない』
ノーマン・クックは嘘つきな人だと思っている。ファットボーイ・スリムという大いなる矛盾を含んだあの名前を初めて知った日、僕は朝まで眠りにつくことができなかった。90年代のロック史を振り返る記事を読んでみても、『ロングウェイ・ベイビー!!』の快楽主義は明らかに浮きまくっている。リアルな音楽にはいつだって溶け切れぬ何らかの逡巡や葛藤や悲しみがその根底に沈殿しているものだ。彼の音楽はそこの部分が徹底的に希薄なのだ。要するに、全然リアルじゃない、嘘っぱちの音楽なのだ。そこには気取ったシニシズムすら存在していない。彼はただ本当にパーティーを楽しみたいだけだ。笑顔を本気で信じているぶん、僕たちを笑わせるためのその嘘は余計にタチが悪い。
25年前から録りためていたけどいつの間にか紛失してしまっていたテープが今回たまたま見つかったからリリースすることにした、という誠に胡散臭い言い訳をわざわざ用意して(25年前には生まれてすらいないはずの人までなぜか参加してる)、ノーマンと愉快な仲間たち(ノーマン曰く「飲み仲間」)による壮大な嘘っぱち計画が実行された! イギー・ポップにデヴィッド・バーンにディジー・ラスカルまで参加しているといっても音楽的には完全に「歌モノ」に特化したファットボーイ・スリムといった感じだし、「人類総裸一貫化計画」とでも言うような恥ずかしいアー写を見てみても、このいい歳した大人たちが揃いも揃ってやろうとしていることはリアルな悲しみなんて置き去りにしてしまう陽気なパーティー以外の何物でもない。嘘もみんなで吐けば怖くないってことね。ノーマン楽しそう。楽しい嘘ならとりあえず吐き続けてみて、もしかしたらそれはいつか本当のハピネスになるかもしれないから。ノーマンは本気でそう信じてる。